これから中古品の売買業を始めようとする方の中には、取引はネット上のオークションサイトやホームページを利用して行うため、実店舗が不要であることから、自宅を営業所として古物商許可を取得しようと思われる方も多いのではないでしょうか。
また、開業当初の諸費用を抑えるために、まずは自宅を営業所として事業を開始したい、という方もいらっしゃることと思います。
確かに自宅の一部を古物商の営業所とする場合、月額の家賃はもちろんですが、敷金・礼金・不動産会社へ支払う仲介手数料などの費用を節約できるため、開業資金を節約するために自宅の一部を使われたいというご相談をよく頂きます。
自宅の一室を古物商の営業所とする
自宅の一室を営業所とすること自体は、禁止されているものではありません。しかし、古物商許可の申請がうまくいくためには、つまり自宅を営業所として認めてもらうためには、いくつか注意しておかなければならない点があります。
賃貸物件か自己所有物件か
まずひとつめは、古物商の営業所とする場所が賃貸物件であるのか、使用貸借物件であるのか、それとも自己所有(または家族所有)の持ち家であるのか、という使用権限に関する点です。
賃貸物件を古物商許可上の営業所とする場合
もし営業所とする予定の場所が賃貸物件であるとすると、賃貸借契約上の使用目的が「居住専用」などとなっている可能性が高いです。仮に賃貸借契約書上の使用目的が「居住専用」などとなっている場合でも、それだけで古物商許可の申請ができないわけではありません。
しかし、このようなケースでは(特に東京都の場合)賃貸人からの使用承諾書の添付を求められる可能性が非常に高くなります。古物商を行う前提で賃借するときは、不動産屋さんを通じて大家さんに許可を確認して借りるはずですから、この点が問題になることは少ないのですが、既に居住用として借りて住んでいるときは、大家さんの承諾という面で手続きの進行が難しくなる可能性が高くなります。詳しくは古物商許可の使用承諾書をご参照ください。
賃貸物件であっても、自宅ではなく元々事務所として使うことを前提に借りた物件であれば、賃貸借契約書の使用目的が「事務所」となっている可能性が高いですから、その場合は使用承諾書を添付せずとも古物商許可の申請が受理される可能性があります。
ただし管轄警察署によっては、このような場合にも念のためという理由から、物件所有者からの使用承諾書の添付を求められることもありますので、念のための確認は取っておくほうがスムーズです。
使用貸借(賃料なしで借りている)物件を営業所とする場合
古物商の営業所とする物件が、賃料を払う契約を結んでの賃借した物件ではなく、所有者の好意などから賃料なしで(タダで)貸してもらっている物件である場合もよくあります。このようなケースでは通常、貸し主である物件所有者が所有権を持っているということを証明する建物登記簿謄本などの他、無償での使用に関する何らかの契約書や取り決め書(使用貸借契約書、念書など)、貸し主からの古物商の営業所として使用することに対する承諾書も別途作成することで、申請は受理してもらえることが多いです。
こういった使用貸借(タダでの貸し借り)は、たとえば夫婦どちらかが所有者として登記されている自宅において、所有者ではない人のほうが古物商許可の申請を行う際にも、生じることもあります。
自己所有物件を古物商許可における営業所とする場合
自己所有の物件を営業所とする予定であれば、古物商許可の申請において問題が生じたり、取得が困難になることはまずありません。もっとも、本当にその人が所有している物件なのか、建物の登記簿謄本等の添付を求められる可能性はあります。
もし自己所有ではなく家族所有の物件を古物商の営業所とする場合も、家族からの使用承諾書が必要になる場合が生じる程度で、こちらもあまり問題が生じることはないと思います。
もっとも、同じ建物で既に家族の誰かが古物商許可を得て要るような場合は、それぞれがどの部屋を営業所とするのか、また各営業所とする部屋に独自の入り口が認められるのかなど、かなり面倒な事態に陥ることもあります。同一物件で複数人が古物商許可を取得する場合は意外と難儀することがあります。事前に管轄警察署などで要件を確認しておくほうがよいでしょう。
自己所有物件でもマンション(集合住宅)を古物商の営業所として使用したい場合は、管理規約に違反しないかの確認が必要です。
標準的な管理規約では、用途が居住用となっており、古物商の営業所として使用する場合は管理規約に違反する事になってしまいます。古物商許可の申請の際、警察署によっては、管理規約違反になっていなかを確認されることがあります。
このようなケースの場合は、管理組合に事前に相談し、管理組合から承諾書を発行して頂くのが、自己所有マンションでの古物商許可申請を確実に行う方法だと思います。
古物商の営業所をどこか1カ所指定する
ところで、ネット上でしか中古品の売買を行わないという方は、そもそも顧客と実際にやりとりするわけではないから、営業所は「なし」ということで申請すればよいのでは?とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし現状、特に東京都においては古物商許可の申請にあたって、営業所をどこか1カ所指定することになっています。つまり、営業所を「なし」では申請できないということです。
これは、もしネット上の売買で問題が発生した際、どこの営業所に対応してもらえばよいのか(商品が送ってこないときなど困った際のクレーム先はどこなのか)、営業所が指定されていなければ取引した人の保護が難しくなってしまうという理由が一番大きいようです。
盗品事件が発生した場合、所轄警察署が古物商許可業者に聞き込みをするためにも、営業所がないと困ってしまうのです。
以上から、通常はどこか1カ所営業所を指定することになり、他に事務所物件などを賃貸していない個人の場合には、自宅を営業所とすることになる(せざるをえない)のです。
なお、色々検討した結果、自宅を古物商の営業所とすることが難しく、バーチャルオフィスやレンタルオフィスの活用を考える方もいらっしゃることと思います。この場合も古物商許可との関係で注意しなければならない点がいくつかございますので、詳しくは、「バーチャルオフィスやレンタルオフィスで古物商許可は取得できる?」をご参照ください。
終わりに
古物商許可申請は、ネット上では「申請は簡単という」という情報が出ていますが、申請書類の準備だけでしたら、他の許認可申請と比較すると簡単な部類に入ると思います
申請書類準備の前段階の、許可条件の確認や調整は、許可申請書を提出する警察署によって様々なため、コツが必要です。
ご自身で何回も警察署に足を運んで警察官とやりとりをすれば何とかなる場合もありますが、警察官との対応に疲弊されたり、許可申請に重要な点の確認漏れがあって、許可申請書が受理されないというケースも過去にありました。
「行政書士は書類を代書するだけでしょ」と思われている方も多いようですが、書類作成はご依頼頂く業務の一部であり、情報を整理して、許可申請上問題になりそうな点を精査し、警察署との折衝まで行います。
平日に警察署に行く時間が確保できない方もそうですが、古物商許可申請で失敗したくない、早く許可申請書を提出したいという方は、古物商許可申請手続きであっても、許認可申請の専門家である行政書士に依頼されることをおススメします。